フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。

@会社の会議室

部長「今日の会議は進捗報告省略して、本題から入ります。……その前にちょっと聞いておきたいんだけど、今週末の三連休、どうしても外せない用事があるっていう人」

会議室のなかの数人、恐る恐る手を挙げる。

部長「うん、まぁこんなもんか。……あぁ、もう下げていいよ。単刀直入に言うとね、お客さんの要望で、この前ユニットまでいったやつ、大きな仕様変更が入ることになりました。しかし、ケツは11月末で変わらないとのことです。そこで、みんなには申し訳ないんだが、今度の三連休でその改修に取りかかってもらいたい。ただし、さっき手を挙げてくれた人は無理する必要はありません」

城崎、挙手する。

城崎「そもそも、どんな仕様変更なのか聞いてもいいですか?」

リーダー「今まで共通系で回していたものをもっと状況別に個別に動くように対応してほしいって要望。いま言うな、だよね。俺も思うよ」

(女性社員2人が小さな悲鳴をあげ、なにかを喋り始める)

城崎「……ほぼ一から作り直しじゃないですか」

部長「だから、三連休の予定聞いただろ?」

女性社員A「でも、この前も週末出たじゃないですか。あれの代休もまだ取ってないんですけど……」

部長「すまないねぇ」

女性社員A「あの、私はいいんですけど、もう身体限界来てる子もいると思うんですよ。その辺り会社はどう考えてるんですか? もう詰められるとこないですよ」

城崎「(会議の流れとは別に個人的に小声で話しかける)松井さん、この前のリカバリって終わったの?」

松井「いやまだ……やっと該当箇所洗い出せたぐらいですよ」

城崎「後で見せて」

松井「え? あ、はい」

城崎、再び挙手。部長、めんどくさそうに発言を促す。

城崎「そもそもこのプロジェクト、人も予算も足りてないです。クライアントがあんな人だってわかった今、もっと人員なり金なり投入したほうがいいのでは」

部長「それができたらねぇ……」

 

@台所

作業場にはさまざまな首をした調味料が並ぶ。なかでも、間抜けな猫の姿を模した形の大きな瓶が異彩を放っている。

魔法使いの女、魔術書の呪文「ふにゃんぱ」を唱え、鍋のなかのものを変化させようとしている。しかし、鍋はうんともすんとも言わない。

魔法使いの女、ため息をつく。もう一度試みようとして、途中でやめ、コップの水を飲む。未練がましく鍋を見ている。

ふと、猫の瓶が目に入る。開けると、線香花火のような火花がちぱちぱ燃える。魔法使いはおもむろに、そこに魔術書の1ページを破って入れる。火花は炎に。魔法使いは、即座に薪に火を移す。うれしそうな魔法使い。

まわりにあった金属棒を組み合わせ、台を作り、鍋を炎の上に移す。

魔法使い「炎だって熱じゃない! これを数十分維持できればふにゃんぱと同じ効果が出せるかも!!

 

@台所

エプロンをつけた男「……うまくいくんですか」

けむくじゃらな生き物「……」

けむくじゃらな生き物は鍋をかき回している。

鍋からは怪しげな煙と香りが漂う。男は鍋を覗き、顔をしかめる。

エプロンをつけた男「あんなにたくさん入れる必要があったんですか? 鶏、牛、魚にセロリ。林檎と舞茸も入れましたよね……それからそれから……塩、マンガン、梢をわたるそよ風、沈む太陽とそれと同じくらいきれいな昇る太陽、光が作る影、足音、囀り、虹。いくらなんでも! 世界を作るわけじゃあるまいし」

けむくじゃらな生き物「……」

エプロンをつけた男「このままではただの混沌です。なにも整理されることなく、なにも生まれることなく、ただごたまぜの、おいしくもない鍋料理ができるだけですよ」

けむくじゃらな生き物、鍋を両手で持つ。

そして、それをエプロンをつけた男にぶちまける。叫びをあげる男。鍋の中身が広がると、台所は野原に。

鳥の囀りが聞こえる。

エプロンをつけた男「なにをしたんです?」

けむくじゃらな生き物「……(満足気な表現)」

エプロンをつけた男「なにを、したんです?」

 

 

@高台

白い羽の天使(白い燕尾服、白いシャツ)と黒い羽の天使(黒い燕尾服、白いシャツ)が高台の上で対峙している。

白い羽の天使「そんなに翼を黒くして。早くこっちへいらっしゃい。飛び方なら教えてさしあげますから」

黒い羽の天使「それがうまくいかなかったからここまで堕ちてきたんだろうが。あんたが一番よく知っているはずだ」

白い羽の天使「だとしても、私にはあなたを連れ戻す義務があります。さぁ、手を」

黒い羽の天使「……本当にできそこないに対する態度だな。腹が立つ。俺がなにもしないで、ただ空を仰いで涙してるとでも思ったか?」

黒い羽の天使、白い羽の天使に背を向け、高台の先端に向かって歩を進める。

白い羽の天使「待ちなさい、あなたにはまだ空を飛ぶ力なんて……」

黒い羽の天使「羽を持つ者は空を飛ばなきゃいけないって誰が決めた? あんたにも見せてやる。これが俺の翼だ」

黒い羽の天使、高台からきれいなフォームで飛び下りる。

高台の下はプール。

黒い羽の天使は着水すると、ペンギンになって水中を泳いでいく。

 

@ロボット工場

ロボットの工場長「それでは、定期メンテナンス手順に従いまして、これより工場内を案内して参ります」

幽霊「……ロボットには俺が見えるのか」

ロボットの工場長「今回のメンテナンスは167年ぶりとなりますので、チェック項目は以下となります。各アーム使用目的の再確認、稼働ルールの再確認、工場の構成要素の再確認……」

幽霊「……」

歩き出すロボット工場長と幽霊。幽霊、しばし立ち止まり壁についた無数の赤い手形を見つめる。

ロボットの工場長、部屋に入り足を止める。幽霊も従う。

ロボットの工場長「まずはロボット単体の用途最適化からご確認をお願いします。現在の最新機RE-48562型。DT-15236型から派生した後継機です」

幽霊、驚いた顔。

幽霊「……思念を伝える駆体がないんだ。そっちで操作してもらえるか」

ロボットの工場長「かしこまりました」

幽霊「部屋のアバターを被せてくれ、22XX年時点の」

部屋の景色がみるみる子供部屋に変わっていく。

記憶をなぞるように辺りを歩いて確かめる幽霊。幽霊、壁にはられた無数の写真を眺める。

幽霊「まさか、あれが俺の愛用機種の後継だったとはね。ずいぶん見た目が変わっていてわからなかった。まぁ、百年以上最適化を繰り返してたらそうなるか。でも、お前たちの最大の欠陥はこれだよ。記憶をいくら再生産してもなにも思うところがないってことだ」

写真のアップ。どれも幽霊と同じ顔をした人物のありとあらゆるシチュエーションの写真。

ロボットの工場長「すみません、よくわかりません」

幽霊「……だろうな」

 

 

 

@アリーナ級の屋外ライブ会場

にぎやかな曲の前奏。

歌手が客席に手を振りながら舞台中央へ入場。

歌手がマイクを手にすると、カメラが水平に180°回転し、歌手の背後を映す。

そこから、上方へとカメラ移動。空には煮え立った琥珀のような色をした月と、のたうちまわるリュウグウノツカイ

カメラ、歌手の背後に戻る。

歌手「(歌おうとする)……! ……。……!! ……!!」

再びカメラ、上空に。

リュウグウノツカイが月を食べていく。

かかっていた音楽の調律が狂っていく。無数の足音。

スタッフ「誠に申し訳ありません。本日の公演はシンガーの体調不良により中止とさせていただきます。繰り返します。本日の公演は……」

不穏な音楽がけたたましく鳴り、カットオフ。

 

@白くて殺風景な医務室

ベッドに横たわる歌手。呆然と天井を見上げている。

が、忌々しそうに横を向き、ベッドから飛び下りる。

歌手は部屋を出る。

 

@暗い廊下

歌手が暗い廊下を歩く。その先に小さな光が漏れる部屋があり、歌手はそこに入る。給湯室だ。

歌手は水を飲む。喉に手を当てる。

物思いに沈む歌手の背後の天井の蓋が開き、けむくじゃらの犬のような生き物が逆さ吊りのままゆっくり降りてくる。耳は長く、地面へと垂れ下がり、ウサギの耳のようだ。

 

 

 

@学校の教室

教師M「……そこで、32ページの3行目を見る。風景の描写があるな。これなんだっけ? 心象風景っていうんだったな! ここに主人公の心情が綴られている」

主人公モノローグ『M上の授業は給食の最後まで残ったコールスローみたいだ』

教師M「黒い雲が急速に流れているってことは、天気が悪くなってるってことだな、うん。雨も降るかもしれない」

教室の背景が徐々に青紫色に翳っていく。

主人公モノローグ『規格化されたマヨネーズの味しかしない。それも水を吸って酸っぱくなったやつ』

教室の生徒のうち、主人公のみ頭ががくりと机の上に落ちる。

教師M「雨が降るということは、鯨の船が6号線の栄町南から出航するということだ。当然、主人公の心境は中町の鵜飼にトルマリンの粉でできたゼリーを食べさせたいってことだな」

主人公「…………」

主人公モノローグ『今日はやけにおもしろいことを言うじゃないか。私はカチカチカチとシャーペンで返事する』

カチカチカチというSE。しかし、主人公は机に突っ伏したまま。

主人公モノローグ『私は地図に大きく丸をする。地図が私を呼んでいる。そこで起きることを、調べなければ』

主人公、一瞬だけ光を放ち、教室から消える。