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@アリーナ級の屋外ライブ会場
にぎやかな曲の前奏。
歌手が客席に手を振りながら舞台中央へ入場。
歌手がマイクを手にすると、カメラが水平に180°回転し、歌手の背後を映す。
そこから、上方へとカメラ移動。空には煮え立った琥珀のような色をした月と、のたうちまわるリュウグウノツカイ。
カメラ、歌手の背後に戻る。
歌手「(歌おうとする)……! ……。……!! ……!!」
再びカメラ、上空に。
リュウグウノツカイが月を食べていく。
かかっていた音楽の調律が狂っていく。無数の足音。
スタッフ「誠に申し訳ありません。本日の公演はシンガーの体調不良により中止とさせていただきます。繰り返します。本日の公演は……」
不穏な音楽がけたたましく鳴り、カットオフ。
@白くて殺風景な医務室
ベッドに横たわる歌手。呆然と天井を見上げている。
が、忌々しそうに横を向き、ベッドから飛び下りる。
歌手は部屋を出る。
@暗い廊下
歌手が暗い廊下を歩く。その先に小さな光が漏れる部屋があり、歌手はそこに入る。給湯室だ。
歌手は水を飲む。喉に手を当てる。
物思いに沈む歌手の背後の天井の蓋が開き、けむくじゃらの犬のような生き物が逆さ吊りのままゆっくり降りてくる。耳は長く、地面へと垂れ下がり、ウサギの耳のようだ。