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@台所
エプロンをつけた男「……うまくいくんですか」
けむくじゃらな生き物「……」
けむくじゃらな生き物は鍋をかき回している。
鍋からは怪しげな煙と香りが漂う。男は鍋を覗き、顔をしかめる。
エプロンをつけた男「あんなにたくさん入れる必要があったんですか? 鶏、牛、魚にセロリ。林檎と舞茸も入れましたよね……それからそれから……塩、マンガン、梢をわたるそよ風、沈む太陽とそれと同じくらいきれいな昇る太陽、光が作る影、足音、囀り、虹。いくらなんでも! 世界を作るわけじゃあるまいし」
けむくじゃらな生き物「……」
エプロンをつけた男「このままではただの混沌です。なにも整理されることなく、なにも生まれることなく、ただごたまぜの、おいしくもない鍋料理ができるだけですよ」
けむくじゃらな生き物、鍋を両手で持つ。
そして、それをエプロンをつけた男にぶちまける。叫びをあげる男。鍋の中身が広がると、台所は野原に。
鳥の囀りが聞こえる。
エプロンをつけた男「なにをしたんです?」
けむくじゃらな生き物「……(満足気な表現)」
エプロンをつけた男「なにを、したんです?」