なだらか
時間はあらゆるものを淘汰していく。この世に存在する事象は全てなだらかになっていくしかない。誰もその力に抗うことはできない。
昨日の夕御飯は思い出せても、一月前の朝御飯は思い出せない。それと同じこと。
しかし、人は抗おうとする。
小さな波を起こし、なだらかになろうとする時間に軛をかける。
暗黙の了解となっている事項を問題として掲げ、法律として明文化したり。
見た目はそっくりだけど資材は殆ど当時のものを捨て去ったことによって完成された新たな建築物に満足してみたり。
マンネリだったカップルが小さな喧嘩をきっかけに恋を再燃させたり。
そういうことを繰り返す。
でも死者は
波を起こせない。
死者をとりまく事項はなだらかになっていく。
遺された者が抗おうとすることもある。しかし、その元となる記憶も時間の淘汰を受けるので、そのイメージは海に流される水墨画のように、徐々に徐々に輪郭がぼんやりとしていく。
今日は昨日から一日遠ざかった。
こうしてなだらかに、少しずつ遠くなっていく。