carry on(『朝顔』第二話までのネタバレあり)
昨日は通っていた講座の修了式だった。くしくも、仕事も一つの節目を迎えた日で、想像以上に自分が関わってきたことの大きさに振り回された。荷物一つおろすのもくたびれる。
夏ドラマは『朝顔』に存外はまった。監察医の朝顔と刑事である父、そして恋人が事件を追う法医ミステリー風ドラマなのだが、ヒューマンドラマの要素が強く、見過ごされそうな細かな心情をミステリーの技法も使いながら非常に丁寧に描いている。
「なぜか」人の捜索が異常に早い刑事の父・平。
「なぜか」朝顔と長い付き合いがありそうな朝顔の上司・茶子先生。
そして「なぜか」ご遺体に毎回語りかけてから解剖を始める朝顔。
これらの疑問がすべて「震災」というワードで一つにつながっていく。
朝顔は母の実家である東北に帰省している最中に震災に遭うという過去を持つ。
大きな揺れがおさまった後、さっき会った知人の安否を気にする朝顔。それで朝顔の母は様子を見に海岸に近いほうへと行ってしまう。
「後は頼んだよ」
という言葉ひとつを朝顔に残して。
その後、母親の行方はわからずじまい。遺体すらみつかっていない。
──これが朝顔のトラウマになっている。
遺体安置所として使われていた小学校の体育館の外で生気を失って呆然としていた朝顔に声をかけたのが監察医として東北に訪れていた茶子先生だった。
「あなた、生きているのよね?」
この言葉で朝顔は我に返り、茶子先生と共に物資の運び出しを手伝う。
その後、恋人の桑原くんに母のことを打ち明けるシーンで、朝顔は監察医になった理由を
「お母さんのことを考えていたら監察医になってた。でも、それって本当に自分がなりたくてなったのかよくわからない」
と言う。そして、その後いくつかの台詞のやりとりがあった後、桑原くんは涙でぐちゃぐちゃになりながら朝顔にプロポーズする。朝顔は「はい」と返事した。
実は、桑原くんの朝顔へのプロポーズは初めてではない。その数日前に、桑原くんは準備万端(?)で朝顔にプロポーズしている。そのときも朝顔はまんざらではなかったが、OKまではしていない。
なにが違ったのかと言うと、桑原くんがちゃんと朝顔を「見ている」と朝顔がわかったからじゃないかと思う。
あまりに心の傷が大きくて、むしろ傷そのものが自分自身であるかのように感じるとき、人は自分が透明人間かなにかになっかのように思うことがある。
全身に入る痛々しいほどの大きな傷を他人は見ようとしない。見なかったことにして、その人のうちのまともな部分を見て「大丈夫」と思おうとする。
「二人なら喜びは二倍、悲しみは半分」というのは幸福な者の詭弁だ。半分にしたって大きすぎる悲しみは誰も背負おうとしない。
それがわかっているから、傷の大きい人は自分でさえもその傷を見ようとしなくなる。それがもう自分の一部であることを変えられない事実だと知りながら、わずかに残った肉片みたいな自分で自分の全身を演じようとする。
やがて、もはやなにが自分なのかわからなくなる。
なにが夢で、なにに使命感を燃やしていたのか。
だから、その傷の大きさを見ても、傷を見た途端に涙でぐちゃぐちゃになるくらいその傷の一部を背負っても「結婚しよう」と言った桑原くんに朝顔はOKしたんだと思う。台詞こそなかったけれど、このときの桑原くんの思いは「あなたを幸せにしたい」だったのだと思う。
茶子先生も桑原くんも、朝顔を透明人間にしなかった。
だから、朝顔を連れて来れたんだと思う。
前に進まなくちゃ、と必死で生きてきて、必死で生きた結果、いろんなものが手元に残った。
でも、私が本当にするべきことは、一回立ち止まることだったんじゃないか。
最近はそう思います。