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フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。幻想小説を書いています。

せせらぎを聞きながら

川沿いの腰掛けで時を過ごす人がいる。

 

コンビニの袋を持った会社員、ノートパソコンを操るジャンクフードが好きそうな男、煙草を吸う髪の明るい女、iPhoneからイヤフォンへ伝う音楽に耳を傾けるジャージ姿のティーンエイジャー。

そういう人がいれかわりたちかわり、日によっていたりいなかったりする。

 

川といっても、鴨川みたいに情緒あふれる場所じゃない。暴れ川を押さえ込むために人間が建てた、刑務所みたいな護岸がそびえたつ。川はその間をちょろちょろと流れている。枯れかけの岩清水みたい。

 

そんな川でも、夜になって街の音が消えれば、せせらぎの音が聞こえてくる。

腰掛けに座っているのは、それを知っている人。

 

今日は月が出ている。薄ら雲が隠しているが満月だ。

腰掛けに座っているのは、電話で話し込む女。明るい声で矢継ぎ早に会話を繰り出し高らかに笑う。少しも間なんて作らない。

 

私はこの道を通るときに、腰掛けに座っている人がちょっと羨ましくなる。情緒があふれていやしないか。でも自分が座りたいとは思わない。道行く人みんなに見られて晒しものみたい。

 

あの人たちは恥ずかしくないの?

ううん、せせらぎに隣りにいて欲しいだけ。

 

電話を切った後、どこにいるかが肝心だった。

自分の部屋だと、部屋にいることもつらくなる。

繁華街じゃ、雑踏が自分の濃度も下げてしまいそう。

それじゃ困る。もしも、これが最後の電話になったとしても、三年後あなたの記憶にまだ私が残っているように意味を置いていきたい。

もしもあの腰掛けに私が座るときがあるとしたら、そんなとき。

 

大丈夫、あなたのことじゃないんだ。

腰掛けに座って今も電話に話しかけている女から私は遠ざかっていく。

あなたの明るい話し声に表裏なんてあるわけない。あなたは突然かかってきた友人からの電話についつい熱が上がり、腰掛けが必要になっただけ。

そう願いながら、通り過ぎる。

せせらぎの音が聞こえなくなるまで5秒もかからない。