フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。幻想小説を書いています。

【迷子電話相談室】いてもいなくてもいいみたい

※「迷子電話相談室」は電話をなくした迷子のための電話相談室です。相談室開設以来、ここには一度も電話がかかってきたことがありません。そこで、当相談室では「きっと、こういう悩みを相談したかったに違いない」と想像し、電話をなくした迷子たちの相談を毎週火曜日の夜に公開することにしました。(内容は個人が特定できないように変更しています。)

街の広場のからくり時計です。80年代に作られた、定時になるとさまざまな音色の鐘がなり人形が踊り出す凝った作りのものです。

あの時代は、高層ビルがどんどんできあがり、ディスコクラブで朝まで踊る人がたくさんいました。他に類を見ない、華やかな時代でした。人々は必要な誰かに出会うために、私の周りで待ち合わせました。そして、定時がやってくると踊り出す人形を見上げ、鐘の音に耳を澄ませていました。そうした人たちのおかげで私は自分の存在意義を疑う必要がありませんでした。みんなが時間を間違えることのないよう、休むことなく一生懸命働いたのです。

しかし、三年ほど経つと、人々はあまり私のからくりに関心を持たなくなりました。まぁ、そんなものだ、と思いながらも私は仕事を続けました。人々は、まだ時計としての私を必要としていたからです。何年もの月日が流れ、鐘は半音ずれたり人形のペンキがはげたり、いろいろぼろが出てきました。それでも時計の仕事は一日も休まず続けていました。

ある時、私の目の前に白い紙が貼られました。
「故障中」
嘘です。私はきちんと動くことができます。その証拠に、針だって正しい時刻を示しているではありませんか。それに、私が動かなかったら時間がわからなくてみんなが困ってしまうでしょう。早くあの白いいたずら紙を剥がしてもらわなければ。しかし、私の前を通る人は何も困った様子がありませんでした。時計を見る代わりに、小さな白い箱の中の文字を見るのに忙しそうです。時代は変わってしまいました。

誰も私を見ないので、普段だったら口にしないいいかげんな歌をうたってみたりもしました。それでも状況は変わりませんでした。私はもう、いてもいなくてもいいみたいです。何のためにこんなにがんばってきたのか、少しむなしくなりました。私がやってきたことは、所詮、時代の潮流にあっというまに流されてしまう程度のことだったのでしょうか。それなら、私ができあがったばかりのあの華々しい時代に、もっと好きなように人生を送っていればよかった。私はかわいい女の子の姿をして、楽しい人生を歩んでいたはずです。


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テンテンコ 「Good bye,Good girl 」(MV) - YouTube

※80年代に撮影されたように見えますが、実際は近年撮影された映像です。