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フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。幻想小説を書いています。

【迷子電話相談室】影がどこにも見当たらない

※「迷子電話相談室」は電話をなくした迷子のための電話相談室です。相談室開設以来、ここには一度も電話がかかってきたことがありません。そこで、当相談室では「きっと、こういう悩みを相談したかったに違いない」と想像し、電話をなくした迷子たちの相談を毎週火曜日の夜に公開することにしました。(内容は個人が特定できないように変更しています。)

 

買い手のつかなかったペットショップの子犬です。子犬、と言っていられるのもあとどれくらいでしょうか。もう柔らかだった産毛は硬く、たくましい毛になってきました。小さい頃は宝物のように僕を扱ってくれた人間も、今は一日に一度、いかにも面倒くさそうな表情で僕のところに食事を運んでくるだけです。僕は急速に必要とされなくなりつつあります。

 

僕は必死になって努力してきました。早く誰かに買ってもらえるように、かわいらしく鳴き、腹を見せ、近付く者の手はぺろぺろ舐めてやりました。しかし、誰も僕を買ってはくれませんでした。僕よりももっと若い子犬やかわいい子犬、あるいは賢い子犬がいるからです。僕はどうしても誰かの一番にはなれませんでした。それでも努力は止めませんでした。頑張り屋だからではありません。そうしなければ、僕の居場所がなくなってしまうからです。

 

僕のいるペットショップは小さな電球が天井にいくつも埋め込まれていて、僕の影は薄くいろんな方向にいくつも伸びていました。僕がジャンプするとその影が一斉にジャンプしました。小さかった頃は、それがおもしろくて何回も跳ね回ったものです。周りにうるさがられながら一日中舌を出して笑っていたこともありました。そのときは、僕にもたしかに影があったのです。そのことは今でもしっかり覚えています。でも、あるときから僕は自分の影が見えなくなってしまいました。どんなにジャンプしても、床に敷かれたピンクの絨毯の色は少しも変わりません。僕は自分の影を探して、籠の中をぐるぐる探し回りました。でも、どこにも影はみつかりませんでした。

 

買い手がつかない、と僕は初めに言いましたが、実はつい先ほど僕を買ってくれる人が現れたそうです。僕は喜びました。もしかして、これをきっかけにして影もみつかるんじゃないか。そんな風に思って後ろを振り返りましたが、やはり影はどこにも見当たりませんでした。

 

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【MV】SCH-006 Light dance / Akira Kosemura - YouTube