フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。

【迷子電話相談室】ともだちだと思ってたのに

※「迷子電話相談室」は電話をなくした迷子のための電話相談室です。相談室開設以来、ここには一度も電話がかかってきたことがありません。そこで、当相談室では「きっと、こういう悩みを相談したかったに違いない」と想像し、電話をなくした迷子たちの相談を毎週火曜日の夜に公開することにしました。(内容は個人が特定できないように変更しています。)

 

こんにちは。さなぎから羽化したばかりの蝶です。今日はともだちのことで相談があります。

私たちは幼虫の頃からずっと同じ葉を食べてきたなかよしでした。

雨の日や風の日は同じ葉の下で身を寄せ合い、えさがなくなりかけたときは分け合って、鳥がやってきたときは共に戦ったりもしました。

どんなときも私たちは一緒だったのです。

ともだちは私と比べると、体が大きく、色もつやつやしていて、ひときわ目立つ存在でした。私は、そんな彼女のそばにいられることが幸せでした。私にはなんの取り柄もないけれど、彼女から「あなたはきっときれいな蝶になるよ」と言われるとそんな気がしてきたし、自分を誇らしく思えました。「あなたのほうがずっときれいな蝶になる。大きな羽根でどこまでも飛んでいける蝶になる。成虫になってもあなたの側で飛ぶことができたらいいな」と私が言うと彼女は「ずっと一緒だよ。蝶になったらあの木のてっぺんを飛ぼうよ」と無邪気な笑顔で言うのでした。

しかし、彼女が言った「木のてっぺん」はとても高いところで、私みたいな小さな体ではいくら蝶になってもとても飛んでいけそうな場所ではありませんでした。でも、「無理だよ」とは彼女の笑顔を見たらとても言うことはできませんでした。私はたくさん葉を食べて、もっと体が大きくなるように努力しました。しかし、体は一向に大きくなりませんでした。

やがて、私たちはさなぎになるときがやってきました。私の体はなかまたちの間でもとびきり小さくて、羽化しても大きな羽根は期待できそうにありませんでした。私の心には日に日に迷いが大きくなっていきました。もしも、私の羽根が予想通りとびきり小さくて、彼女と一緒の速さで飛ぶなんてできなかったとしても、彼女は私の側にいてくれるのだろうか。約束通り、私と一緒に飛んでくれるのだろうか。さなぎになる前に、私は彼女に聞いてみたい気持ちでいっぱいでした。でも、ともだちを疑うなんて浅ましい気がして、それは止めました。私は彼女を信じて、さなぎになりました。幼い頃からの彼女との思い出が、さなぎの棺のなかで何度も何度も繰り返しよみがえりました。

そして、ようやく羽化の瞬間が訪れました。さなぎから這い出てみると、こんな私にもしっかりと四枚の羽根がついていました。思ったより小さくはありませんでした。これなら、彼女とも一緒に飛べるかもしれない。けれど、肝心の彼女が、どこを探してもいません。それどころか、周りに蝶は一匹もいないのです。もう既に空っぽになったさなぎが、辺りに散乱するばかりです。ひときわ体の小さかった私は、他の蝶よりも羽化が遅れていたのでしょう。私はひとりぼっちでした。彼女は、私を置いて先に空に飛びたっていたのです。ずっと友達だったから、もしも私の羽化が遅れても彼女はきっと待ってくれる。そう思っていたのは私だけでした。やっときれいな羽根ができたのに、それもうれしくなくなってきました。私はこれからどうすればいいのでしょう。

 

今日の先生。

 


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