人物描写1
19歳くらい。女。四人兄弟(男女男女)の末っ子。兄姉は、両親はおおらかな性格で、あまりにのんびりしているため苛つくことも多い。自分の願望を最優先に考え、そのために人を利用しようとすることもある。嘘泣きがうまい。ちょっと耳につくぐらいのきんきん声で話す。小さい頃にお気に入りの文房具を友達に盗まれ、かつ、その犯人と疑われたことがあるため、友達をあまり信じない。誰にも頼らないことが自由に生きるコツだと考えている。嫌なことは他人に大事なもの(相棒の杖、いつも被っている帽子)を触られること。杖に嵌めるいっそう豪華な宝石を求めて旅を続けている。社会的地位などには興味がない。自分の美を追究するタイプ。
今の旅の仲間と出会い、大事なものが増えた。はじめは、それぞれの仲間が持つ宝石目当てだったが、宝石が持ち主の手から離れると輝きを失うと知って、仲間そのものを大事にするようになる。
■
@桜の林
満開の桜の木の下。向かい合う女性が二人。どちらも時代がかった着物姿だがAの着物だけ泥にまみれぼろぼろ。
着物の女A「お前か、私に毒を盛り、この桜の木の下に埋めたのは」
着物の女B「いかにも。でも、あんたがまた必要になって呼び出した」
着物の女A「(失笑)必要? お前が殺したのに?」
着物の女B「どうしても、あんたに見てほしいものがある」
着物の女B、懐から扇子を取り出し、着物の女Aに向け、踊り始める。
着物の女A「○○(演目名)かい」
躍りを眺める着物の女A。その目に生者のようなあかりが灯る。
着物の女A「そりゃあ、いないだろうさ。この演目の良し悪しがわかるほど舞を極めたものなんざ、私をおいて他には」
着物の女Bの情熱的な舞が続く。
着物の女A
「その舞を踊るのが自分を殺した相手であっても、喜んで魅入るような女なんて、なおさらな」
■
@ハロウィン前夜の魔法使いの家の玄関
多くの幽霊などこの世に在らざる者が魔法使いの家を掃除するために出入りしている。そこに、迷子と思われる7歳くらいの女の子が周りをきょろきょろしながら入り込む。白く、きれいな服を着ており、明らかに周りの幽霊とは雰囲気が異なる。
飛びながら天井付近を掃除していた幽霊Aが女の子に気づく。
幽霊A「ねぇ、ちょっとなにあの子」
幽霊B「? ……(女の子を見て)あら、生きてるの?」
幽霊A「こっち見てるんだけど」
幽霊B「ぴゃーっとおどかしてさっさと帰ってもらう?」
幽霊A「やだ、泣かれたらめんどうじゃない。こんなに忙しい日だってのに」
幽霊B「……ふふ、かわいいと思ってるならかわいいって言えばいいのに」
幽霊B、女の子のもとに飛んでいく。
幽霊B「こんにちは」
女の子「……(泣きそうな顔)」
幽霊B「ストップ、ストップ。泣かないどくれ、私の相棒が泣くことになる! あぁ、今のは気にしないで。えーと、あぁそうだ。はたきは好きかい?」
幽霊Bがはたきを女の子に見せる。長い毛のはたきは、犬のように動いている。はたきは女の子に飛びつき、なつく。
幽霊B「気に入られたようだね。ちょっとそのはたきとその辺散歩してくれないかね。今日はハロウィンの前日だろ? お屋敷をみんなで掃除していて、幽霊の足も借りたいくらい忙しいんだ。(声のトーンを落として)あんたも無事に帰りたかったら、手伝ってくんな」
女の子「(必死で頷く)」
幽霊B、にやっと笑い、幽霊Aのもとに帰る。
幽霊B「手伝ってくれるって。しばらくはあの子のこと眺め放題よ」
幽霊A「やだ、ミルク臭い。生きてた頃のことを思い出しちゃうじゃない」
■
@白くて奥行きのない空間
人のようで頭がウサギの生き物が画面中央に横たわっている。
ウサギ「愛する者などいない」
画面、ネガポジ反転し、悪魔、処刑人、異端尋問者が現れ、ウサギを痛めつける。それをオレンジ色の鳥のようなものが追い払う。再び、ネガポジ変換。オレンジ色の鳥は青い鳥に。
青い鳥「不幸を」
ウサギ「愛する者などいない。それゆえ、必要とされることもない」
ネガポジ変換し、ウサギの頭上に線。地中に埋められたように見える。その線の上に、種蒔く人と育っていく植物。再び、ネガポジ変換し、先程の白背景の絵に、水平線とその上に生える植物が加わる。
青い鳥「不幸を」
ウサギ「愛する者などいない。それゆえ」
種蒔く人「なされるがまま立ち止まり続けることが」
ウサギ「必要とされることもない。叶えたい願いを持つことが許される訳もない」
ネガポジ変換し、今まで描き加えられた要素がすべて黒く塗り潰される。
青い鳥「不幸を」
塗り潰されたはずの青い鳥が浮かび上がる。
ウサギ「愛する者などいない。それゆえ」
種蒔く人「なされるがまま立ち止まり続けることが」
同様に種蒔く人が浮かび上がる。
ウサギ「必要とされることもない。叶えたい願いを持つ」
青い鳥・種蒔く人「者の願いを否定する」
ウサギ「ことが」
背景に木や蝶などが描き加えられ、画面が賑やかになっていく。
青い鳥・種蒔く人「あなたの仲間である私たちにとって許される訳もない」
■
@リビング
電話台の上に40代の女性の遺影。
母モノローグ『こんばんは、お母さんです。また娘ちゃんの様子が気になって来ちゃいました。う~ん、現世への未練ってどうやったら絶ち切れるのかしら。これじゃ転生してスライムにもなれないわ~』
一人でリビングの机のうえでたくさんの紙を広げている娘。年は中学生ぐらい。
母モノローグ『またあの子一人で……。お父さんも最近夜遅いし、しょうがないっちゃしょうがないんたけどね。お年頃なんだから友達とラインでもしててくれたほうがお母さんまだ心配しないんだけどな』
娘の手元アップ。作りかけのジグソーパズル、描きなぐった絵、教科書とノートなどがどれも中途半端な状態のまま散らかっている。
母モノローグ『なんか注意散漫って感じ。この前の親子喧嘩引きずってるのかしらね~。お父さんから怒鳴られるなんてたぶん初めてだったわよね、うん。これ以上頼れる人がいなくなっちゃったらどうしようって不安でしょうがなくなっちゃったかな。あれで結構繊細なところあるから……(娘、席を立ち、台所でコップに水をくみ飲む。そして、テレビをつけ、ごろごろする)あ~あ、またやめちゃった。散漫散漫サマンサ○バサだ~』
娘「(同時に)散漫散漫サマンサ○バサ~」
再度、机の上アップ。
ジグソーパズル、そして、描きかけの絵。絵はジグソーパズルと同じ絵が完成した状態で描かれ、さらに、その背景が描きかけの状態である。
娘「……大丈夫、大丈夫」
娘、テレビを見ながら一人で笑う。
母モノローグ『……繊細な子だから、見てるの気づかれちゃってるかな』
■
@真っ暗な上も下もない空間
暗闇のなかに、わずかな人の影らしき輪郭線。その輪郭線が、べちゃべちゃした気持ち悪い音をたてるなにかによってめちゃくちゃにされている。
人は苦しみのうめき声をあげながらもじっと耐えている。
しかし、さらに派手なべちゃっとした音とともにその輪郭線が消える。人の苦しみの声も止み、無音になる。
人「もう終わるのだろうか。それとも、もう終わったのだろうか」
一筋、涙を、思わせる白い線が画面上から下に向けて、現れて消える。
暗い画面のまま、人の姿らしきものが加わる。
友人(回想)「泣き虫だなぁ。これじゃあいつらの思うつぼじゃないか。『嫌だ、こんなことされたくない』って言ってやれよ」
人(回想)「そんなことしたって……勝てるわけないだろ! 同じことだよ……」
友人(回想)「おまえ一人だったらな」
再び、画面に涙を思わせる白い線。しかし、それは消えずに画面に残る。白い線の向こう側に、もう一人の人の姿の輪郭線が蠢いている。
白い領域が徐々に増えていき、そこに手を差し伸べる友人の姿。
人「……嫌だ、負けたくない。まだ、この身体は、おまえには渡さない!」
■
@カップ麺の空き容器でできたほったて小屋
丸い大鏡の前に椅子。その後ろに白い毛むくじゃらの生き物。美容院のようである。
コンコン、と空き缶でできたドアチャイムが鳴る。
スーツの男が小屋に入ってくる。男は周りを珍しそうに見渡す。
赤いき○ね、緑の○ぬき、が圧倒的に多く、ときどき○pa王が混じっている。
白い毛むくじゃらの生き物、男を席に促す。男が席に座ると、散髪の準備を始める毛むくじゃらの生き物。
男「あの、髪型は……」
白い毛むくじゃらの生き物、有無を言わさず、ドライヤーを男にかけ始める。ブラシを使いながら実に丁寧な動作。
男「……」
白い毛むくじゃらの生き物、ドライヤーが終わると、いよいよハサミで男の髪を切り始める。リズミカルで心地よいハサミの音を聞くうちに、男の表情がだんだんと柔らかくなっていく。
男「人って、変われるの……(白い毛むくじゃらの生き物の毛が口に入ってなにも言えなくなる)……」
壁のラーメンカップが風でかたこと音をたてている。男モノローグ「まぁ、いいか……」