フェンスに揺れるスカート

深森花苑のブログです。

@白くて奥行きのない空間

人のようで頭がウサギの生き物が画面中央に横たわっている。

ウサギ「愛する者などいない」

画面、ネガポジ反転し、悪魔、処刑人、異端尋問者が現れ、ウサギを痛めつける。それをオレンジ色の鳥のようなものが追い払う。再び、ネガポジ変換。オレンジ色の鳥は青い鳥に。

青い鳥「不幸を」

ウサギ「愛する者などいない。それゆえ、必要とされることもない」

ネガポジ変換し、ウサギの頭上に線。地中に埋められたように見える。その線の上に、種蒔く人と育っていく植物。再び、ネガポジ変換し、先程の白背景の絵に、水平線とその上に生える植物が加わる。

青い鳥「不幸を」

ウサギ「愛する者などいない。それゆえ」

種蒔く人「なされるがまま立ち止まり続けることが」

ウサギ「必要とされることもない。叶えたい願いを持つことが許される訳もない」

ネガポジ変換し、今まで描き加えられた要素がすべて黒く塗り潰される。

青い鳥「不幸を」

塗り潰されたはずの青い鳥が浮かび上がる。

ウサギ「愛する者などいない。それゆえ」

種蒔く人「なされるがまま立ち止まり続けることが」

同様に種蒔く人が浮かび上がる。

ウサギ「必要とされることもない。叶えたい願いを持つ」

青い鳥・種蒔く人「者の願いを否定する」

ウサギ「ことが」

背景に木や蝶などが描き加えられ、画面が賑やかになっていく。

青い鳥・種蒔く人「あなたの仲間である私たちにとって許される訳もない」

 

@リビング

電話台の上に40代の女性の遺影。

母モノローグ『こんばんは、お母さんです。また娘ちゃんの様子が気になって来ちゃいました。う~ん、現世への未練ってどうやったら絶ち切れるのかしら。これじゃ転生してスライムにもなれないわ~』

一人でリビングの机のうえでたくさんの紙を広げている娘。年は中学生ぐらい。

母モノローグ『またあの子一人で……。お父さんも最近夜遅いし、しょうがないっちゃしょうがないんたけどね。お年頃なんだから友達とラインでもしててくれたほうがお母さんまだ心配しないんだけどな』

娘の手元アップ。作りかけのジグソーパズル、描きなぐった絵、教科書とノートなどがどれも中途半端な状態のまま散らかっている。

母モノローグ『なんか注意散漫って感じ。この前の親子喧嘩引きずってるのかしらね~。お父さんから怒鳴られるなんてたぶん初めてだったわよね、うん。これ以上頼れる人がいなくなっちゃったらどうしようって不安でしょうがなくなっちゃったかな。あれで結構繊細なところあるから……(娘、席を立ち、台所でコップに水をくみ飲む。そして、テレビをつけ、ごろごろする)あ~あ、またやめちゃった。散漫散漫サマンサ○バサだ~』

娘「(同時に)散漫散漫サマンサ○バサ~」

再度、机の上アップ。

ジグソーパズル、そして、描きかけの絵。絵はジグソーパズルと同じ絵が完成した状態で描かれ、さらに、その背景が描きかけの状態である。

娘「……大丈夫、大丈夫」

娘、テレビを見ながら一人で笑う。

母モノローグ『……繊細な子だから、見てるの気づかれちゃってるかな』

 

@真っ暗な上も下もない空間

暗闇のなかに、わずかな人の影らしき輪郭線。その輪郭線が、べちゃべちゃした気持ち悪い音をたてるなにかによってめちゃくちゃにされている。

人は苦しみのうめき声をあげながらもじっと耐えている。

しかし、さらに派手なべちゃっとした音とともにその輪郭線が消える。人の苦しみの声も止み、無音になる。

人「もう終わるのだろうか。それとも、もう終わったのだろうか」

一筋、涙を、思わせる白い線が画面上から下に向けて、現れて消える。

暗い画面のまま、人の姿らしきものが加わる。

友人(回想)「泣き虫だなぁ。これじゃあいつらの思うつぼじゃないか。『嫌だ、こんなことされたくない』って言ってやれよ」

人(回想)「そんなことしたって……勝てるわけないだろ! 同じことだよ……」

友人(回想)「おまえ一人だったらな」

再び、画面に涙を思わせる白い線。しかし、それは消えずに画面に残る。白い線の向こう側に、もう一人の人の姿の輪郭線が蠢いている。

白い領域が徐々に増えていき、そこに手を差し伸べる友人の姿。

人「……嫌だ、負けたくない。まだ、この身体は、おまえには渡さない!」

 

 

 

カップ麺の空き容器でできたほったて小屋

丸い大鏡の前に椅子。その後ろに白い毛むくじゃらの生き物。美容院のようである。

コンコン、と空き缶でできたドアチャイムが鳴る。

スーツの男が小屋に入ってくる。男は周りを珍しそうに見渡す。

赤いき○ね、緑の○ぬき、が圧倒的に多く、ときどき○pa王が混じっている。

白い毛むくじゃらの生き物、男を席に促す。男が席に座ると、散髪の準備を始める毛むくじゃらの生き物。

男「あの、髪型は……」

白い毛むくじゃらの生き物、有無を言わさず、ドライヤーを男にかけ始める。ブラシを使いながら実に丁寧な動作。

男「……」

白い毛むくじゃらの生き物、ドライヤーが終わると、いよいよハサミで男の髪を切り始める。リズミカルで心地よいハサミの音を聞くうちに、男の表情がだんだんと柔らかくなっていく。

男「人って、変われるの……(白い毛むくじゃらの生き物の毛が口に入ってなにも言えなくなる)……」

壁のラーメンカップが風でかたこと音をたてている。男モノローグ「まぁ、いいか……」

 

 

@会社の会議室

部長「今日の会議は進捗報告省略して、本題から入ります。……その前にちょっと聞いておきたいんだけど、今週末の三連休、どうしても外せない用事があるっていう人」

会議室のなかの数人、恐る恐る手を挙げる。

部長「うん、まぁこんなもんか。……あぁ、もう下げていいよ。単刀直入に言うとね、お客さんの要望で、この前ユニットまでいったやつ、大きな仕様変更が入ることになりました。しかし、ケツは11月末で変わらないとのことです。そこで、みんなには申し訳ないんだが、今度の三連休でその改修に取りかかってもらいたい。ただし、さっき手を挙げてくれた人は無理する必要はありません」

城崎、挙手する。

城崎「そもそも、どんな仕様変更なのか聞いてもいいですか?」

リーダー「今まで共通系で回していたものをもっと状況別に個別に動くように対応してほしいって要望。いま言うな、だよね。俺も思うよ」

(女性社員2人が小さな悲鳴をあげ、なにかを喋り始める)

城崎「……ほぼ一から作り直しじゃないですか」

部長「だから、三連休の予定聞いただろ?」

女性社員A「でも、この前も週末出たじゃないですか。あれの代休もまだ取ってないんですけど……」

部長「すまないねぇ」

女性社員A「あの、私はいいんですけど、もう身体限界来てる子もいると思うんですよ。その辺り会社はどう考えてるんですか? もう詰められるとこないですよ」

城崎「(会議の流れとは別に個人的に小声で話しかける)松井さん、この前のリカバリって終わったの?」

松井「いやまだ……やっと該当箇所洗い出せたぐらいですよ」

城崎「後で見せて」

松井「え? あ、はい」

城崎、再び挙手。部長、めんどくさそうに発言を促す。

城崎「そもそもこのプロジェクト、人も予算も足りてないです。クライアントがあんな人だってわかった今、もっと人員なり金なり投入したほうがいいのでは」

部長「それができたらねぇ……」

 

@台所

作業場にはさまざまな首をした調味料が並ぶ。なかでも、間抜けな猫の姿を模した形の大きな瓶が異彩を放っている。

魔法使いの女、魔術書の呪文「ふにゃんぱ」を唱え、鍋のなかのものを変化させようとしている。しかし、鍋はうんともすんとも言わない。

魔法使いの女、ため息をつく。もう一度試みようとして、途中でやめ、コップの水を飲む。未練がましく鍋を見ている。

ふと、猫の瓶が目に入る。開けると、線香花火のような火花がちぱちぱ燃える。魔法使いはおもむろに、そこに魔術書の1ページを破って入れる。火花は炎に。魔法使いは、即座に薪に火を移す。うれしそうな魔法使い。

まわりにあった金属棒を組み合わせ、台を作り、鍋を炎の上に移す。

魔法使い「炎だって熱じゃない! これを数十分維持できればふにゃんぱと同じ効果が出せるかも!!

 

@台所

エプロンをつけた男「……うまくいくんですか」

けむくじゃらな生き物「……」

けむくじゃらな生き物は鍋をかき回している。

鍋からは怪しげな煙と香りが漂う。男は鍋を覗き、顔をしかめる。

エプロンをつけた男「あんなにたくさん入れる必要があったんですか? 鶏、牛、魚にセロリ。林檎と舞茸も入れましたよね……それからそれから……塩、マンガン、梢をわたるそよ風、沈む太陽とそれと同じくらいきれいな昇る太陽、光が作る影、足音、囀り、虹。いくらなんでも! 世界を作るわけじゃあるまいし」

けむくじゃらな生き物「……」

エプロンをつけた男「このままではただの混沌です。なにも整理されることなく、なにも生まれることなく、ただごたまぜの、おいしくもない鍋料理ができるだけですよ」

けむくじゃらな生き物、鍋を両手で持つ。

そして、それをエプロンをつけた男にぶちまける。叫びをあげる男。鍋の中身が広がると、台所は野原に。

鳥の囀りが聞こえる。

エプロンをつけた男「なにをしたんです?」

けむくじゃらな生き物「……(満足気な表現)」

エプロンをつけた男「なにを、したんです?」